世界的デジタルアワード「The Webby Awards 2025」で、ONのリクルートサイトが最優秀賞を受賞した。評価の核にあったのは、“見た瞬間に惹きつける驚き”と“軽快に動く実装”の両立にほかならない。今回は、その舞台裏を担ったフロントエンド&バックエンドエンジニア、Tomoya Takahashi(Orunica Inc.)に話を聞いた。Flash時代から積み上げてきた実践感覚と、現在進行形の技術更新ーー受賞に至るまでの道筋と、次に見ている視界を語ってもらう。

受賞の第一声と、ニューヨークで感じた“第一線のエンタメ”
受賞の知らせを聞いた瞬間、まず出てきた感情は「驚き」だった。狙っていたというより、青天の霹靂とも言える突然の出来事だったとTakahashiは振り返る。
「全然想像してなかったので、いきなり大賞というか……。今までで一番大きなことが突然やって来たみたいで、ただただびっくりしました。これまでの職場でもWebbyの名前は大きな指標として耳にしてきましたが、自分の名が刻まれるとは思いもしませんでした」
今回評価されたポイントは、“見た人を一瞬で惹きつける仕掛け”をサイト全体に織り込んだことにある。
「他のリクルートサイトは、コンセプト重視だったり、見た目の華やかさとは別のところに焦点を当てるものも多い。その中で、今回は“目を引く仕掛け”を徹底した。その『皮肉』というか、エッジの効いた姿勢が評価されたのかなと思います」
授賞式のために訪れたニューヨークの街も、彼に新鮮な刺激を与えた。
「一言で言うと、エンタメの頂点。ステージでのプレゼン一つとっても、会場を笑わせる空気感があって、そのど真ん中に自分たちが少しだけ入れたのが嬉しかったですね。タイムズスクエアやウォール街を歩きながら、人種の多様性と生活感が共存しているのを見て、『世界の動き』を肌で感じられた。ジャズを聴きに行く時間がなかったのだけが心残りですが、また必ず行きたい場所になりました」

Flashからはじまる「ゼロイチ」の快感と、Macに賭けた覚悟
Takahashiのキャリアの起点は、中学時代のパソコンクラブや、dosコマンドを叩いていた原体験にまで遡る。しかし、それが仕事として輪郭を持ち始めたのは、ある友人からのひと言だった。「バンドのホームページを作ってほしい」ーーその依頼に応えようとするうちに、面白さにのめり込んでいった。
「当時はFlash全盛期。タイムラインを引いて動かして、見よう見まねでスクリプトを書く。右も左もわからないゼロからのスタートでしたが、調べて、手を動かして、初めてにしては“結構よくできたな”と思えた。あの快感が、すべての起点だったと思います」
本格的にこの業界で生きていくと決めたとき、彼は大きな決断をした。
「当時はお金もなかったんですが、Macをローンで買ったんです。腹をくくって、これでスタートするぞと自分に言い聞かせました。そこから友達のバンドサイトをいくつも作って、ひたすら経験を重ねていきました」
以後、とにかく“数”を作った。最初に入社した数人の会社では、デザイン、コーディング、時には印刷物まで、一人で全部やる環境に身を置き、基礎体力を徹底的に鍛え上げた。

1週間帰れない修羅場の先に見えた“光”
その後、大規模組織を経て、クリエイティブ特化の組織である「バードマン」への参画が大きな転機となる。実力者が集う現場で、彼はテクニカルディビジョンのリーダーとして大規模案件を牽引する立場となった。
「できる人がたくさんいる中に入って、とにかく鍛えられました。一番印象に残っているのは、あるプロジェクトで1週間帰れなかったこと。肉体的には相当きつかったですが、打ち上げでお客さんがめちゃくちゃ喜んでくれている姿を間近で見たとき、すべてが報われました。メディアに取り上げられることも嬉しいですが、目の前の人が震えるほど喜んでくれる。それが僕のいちばんの報酬なんです」
業界歴が長くなり、今ではどんなトラブルが起きても解決策の道筋が見えるようになった。その「修羅場対応力」こそが、今の彼の揺るぎない強みとなっている。

ONとの協働ーーエンジニア冥利に尽きる「普通じゃない案件」
ONとの出会いはコーポレートサイトの制作だった。Mai.OをはじめとするONチームの、表現上の固定観念を壊す提案と、事業としての確かな成立。一見相反する要素を同居させる“バランス感”に強い印象を受けた。
「最初に構想を聞いたとき、いい意味でぶっ飛んでいるなと(笑)。そんな規制や固定概念がない勢いと、事業としての強さが不思議なバランスで成り立っている。そんな会社だなと思っています」
その姿勢は今回の採用サイトでも貫かれた。特に大量の弾幕表現は、フロントエンドエンジニアにとって大きな挑戦だった。
「やりたいことを全部入れちゃってください、と言われて。まずは自分が何をやりたいかを見つめ直し、どう組み込めば面白くなるか、自問自答を繰り返しました。弾幕の量がすごすぎて重くなりがちなのを、どう軽く走らせるか。何度もトライ&エラーを重ねました。普通じゃない案件ではあるんですが(笑)、そんな極端な表現を求められるのは、エンジニア冥利につきますね。自分の能力をより引き出さないといけない、最高のモチベーションになりました」

AIを使い倒し、期待を“ちょっとずつ”超え続ける
次に見ている地平は、“効率化とAIの共進化”だ。
「今はChatGPTなどを最初期から使い倒していますが、今後はさらにAIの比重を高めていきたい。自分がコードを書く量を減らし、その分、より高度な設計や表現の領域にAIをシフトさせる。AIがない世界にはもう戻れない以上、そこにベットして使い倒していくつもりです」
現在、桑沢デザイン研究所で非常勤講師として教える立場でもある。学生たちに教えているのは、技術以上に「姿勢」の部分だ。
「日々、新しい表現をチェックして『どうやるんだろう?』と貯め続けること。そして、アドバイスを求められたら二つのことを伝えています。一つは『まず手を動かして作ること』。作らないと自分の限界は見えません。もう一つは『毎回、ほんの少しだけ期待を超えること』。打ち合わせのときに、言われたものだけじゃなく小さなプロトタイプを作って持っていく。それだけでプロジェクトの熱量は変わります。その積み重ねが、結局は大きな信頼に繋がっていくと思います」
評価は目的ではなく結果。驚きの受賞も、積み重ねてきた作法の延長線上にある。挑戦を設計し、実装で走り切る。その循環を淡々と、しかし熱く回し続ける限り、彼の指先からまた新しい“驚き”が生まれ続ける。
