韓国で生まれ育ち、日本に渡ってデザインを学び、働く。そんなキャリアを歩んできたYONJYU.Cは、今、ONでUIデザイナー兼ディレクターとして活躍している。

グラフィック、立体展示、看板制作——さまざまな現場を経てたどり着いたのは、「誰かのために何をどう届けるか」を徹底して考える世界だった。異国の地で、好きなことを仕事にする。その裏には、小さな感動からはじまった確かな原点と、経験を重ねることで見えてきた「自分の役割」がある。

この場所で、YONJYUが今、どんなことを感じ、どんな未来を描いているのか。言葉を借りながら、その輪郭をたどってみたい。

「日本のお土産に感動して…」YONJYUの“デザインの原点”

韓国出身のYONJYUがデザイナーとしての道を選んだきっかけは、「絵を描くことが好きだったから」。母親の仕事の関係で日本に親しみがあり、子どものころに目にしたお土産のパッケージの美しさに感動したことで、「日本でデザインを学ぶ」ことを自然に志すようになったという。

「パッケージもそうだし、細かいところまでデザインが行き届いていて、ただただすごいなあと。ちなみに最近はゼスプリのキウイブラザーズが好きです(笑)」

その後、日本の専門学校に進学するとともに在住。将来的にはグラフィックデザインを仕事にするつもりだったが、卒業制作で立体の大型展示を手がけた際、“見せるだけで終わらないものづくり”に惹かれていった。

「卒展で“作って終わり”じゃなくて、誰かとつながる作品を作れたことで、“制作のその先”にある楽しさに気づいたんです。そこからものづくりの現場に行ってみたいと思うようになりました」

卒業後に入社したのは、看板を中心に制作する会社。飲食店のロゴサインから、百貨店の館内ポスターまで、街中の“目に見えるもの”に携わっていった。

「結構いろんな現場に行きました。現場でサイズを測ったり、図面を引いて制作したり……。看板は作って終わりという感じもありますが、それだけに“その場の最適解”を考えるおもしろさがありました。『やりきったなぁ』と思えるくらいには、いろんなものを作ってきましたね」

“育てるものづくり”へのシフト グラフィックからUIデザインの世界へ

YONJYUが次に目指したのは、より長く・深く関われる“育てるものづくり”だった。転職先として選んだのが、ONだった。きっかけは、Webサイトのデザインだったという。

「ホームページを見たときに『すごくおしゃれだな』と思ったんですよね。デザインの業務をする企業だから、なおさら説得力があって。私自身、これまでのグラフィックの延長ではなく、もっとデジタルの領域でものを作っていきたいと感じていた時期でもありました。UIデザインの経験は少なかったけれど、未経験でも挑戦できる環境があると知って、ここでならスキルを広げられるかもしれないと思ったんです」

最初に、そして現在も携わっているのが、大手証券会社の取引サイトを中心としたUIデザインのプロジェクトだ。金融業界の知識がまったくなかったこともあり、当初は不安が大きかったというが、現場の空気は意外なほどカジュアルだった。

「証券会社って聞いて、最初はすごく固い職場なんじゃないかって緊張してたんです。でも、デザイン部門にいた人たちはみんな髪の色も自由で、個性を尊重する雰囲気。IT系の企業みたいな空気で、すぐに馴染めました」

UIデザインという新しい分野に踏み出したYONJYUだったが、これまでの看板制作の経験が意外な形で活かされたという。

「看板の仕事も、現場でサイズを測って、どう設置されるかを想定して、全体を設計するんです。UIも、ユーザーの動きを考えて画面を設計していくという意味ではすごく近い感覚でした。使うツールは違っても、“どう伝えるか”を設計するという本質は変わらなかったんですよね」

現在は、プレイヤーとして手を動かす一方で、他のメンバーの相談に乗ったり、チームを俯瞰してサポートする場面も増えてきた。3年という勤務期間のなかで、役割の幅も自然と広がっている。

“誰かのためのデザイン”を考える──ONで広がった視野と未来のビジョン

これまでのキャリアのなかで、自分自身の役割や強みの変化をどう受け止めているのかーーそう尋ねると、YONJYUは少し考え込んでから、こんな言葉を口にした。

「昔は“自分がどう成長できるか”っていう視点ばかりだった気がします。でも最近は、“自分がいることでチームにどうプラスになるか”を考えるようになった。そういう風に考えられるようになったのも、ONという環境でいろんな人と関われたからだと思います」

そして、これからONを目指す人たちに向けて、YONJYUは“あるべきデザイナーとしての姿勢”をこんなふうに語ってくれた。

「デザインって、外から見ると、すごいものとかきれいなものを作る華やかな仕事に見えるかもしれません。でも実際にやってみると、自分のつくりたいものを作る仕事ではなくて、“誰かのために何をどう届けるか”を考える仕事なんです。証券のプロジェクトでも、“これを作りたい”って気持ちだけで入った人は長続きしなかった印象があります。相手のことを考えて、課題を解決する。そのマインドがある人こそ、デザイナーとして長く続けられるんじゃないかと思います」

最近では、旅行をしながら新しい街を歩くことが、気分転換にもインスピレーションにもなっているという。以前訪れた直島では、安藤忠雄の建築に触れ、空間全体が放つ静けさと緊張感に強く惹かれた。

「単に“かっこいい”とか“おしゃれ”っていうのを超えて、場の雰囲気まで設計されている感覚がすごく好きで。いつか、空間全体のトーンを設計するようなプロジェクトにも関われたら、という気持ちはあります」

そうした関心をもとに、“好き”をどう仕事に落とし込んでいけるかを模索する日々が続いている。自分の感性を活かしながら、誰かの役に立つ。その両輪で歩んでいく先に、広がる景色があると信じている。

「自分の“好き”が、もっと誰かのためになる形で広がっていったらいいなと思っています。この会社には、それが実現できる環境があります。だから、もし少しでも興味があるなら、迷わず一歩踏み出してみてほしいです」